地下足袋山中考 NO5
<シャトルバスと奥阿仁観光>

 秋田県の山岳観光で、唯一シャトルバスを運行しているのが田沢湖の駒ヶ岳だ。シーズン中、羽後交通がアルパこまくさ〜8合目駐車場約10キロ区間を朝6時から午後5時まで19往復する。平成21年の延べ利用者は約4万人だそうだ▲8合目駐車場がマイカーで溢れ、路上駐車による交通マヒが深刻化しマイカー規制に踏切ったのが平成7年。期間規制からシーズン規制に強化されたが、不便さは微塵もない。一頃の大渋滞を思うと始発時間、台数、便数対応の良さは、ゆとり感をもって楽しめる駒ヶ岳登山の魅力にさえなっている。さらにJR田沢湖駅から乳頭温泉郷の定期便とリンクし、駒ヶ岳〜乳頭山〜乳頭温泉郷縦走トレッキングの利便性を高めている▲環森吉山観光ですぐさまシャトル対応を必要とする路線は、奥阿仁マタギの里を宿泊行動拠点とする、中ノ又渓谷と立又渓谷トレッキングだろう。特に紅葉シーズンの安滝行きは駐車場に入る事も戻ることもままならぬ状態となる。打当温泉や阿仁マタギの駅を行動拠点とする期間限定のシャトル運行が急務である▲その対応策を挙げると両渓谷ともに中ノ又林道が5キロ、立又林道が2.5キロの舗装と部分ガードの整備の他に、中ノ又・立又沢分岐の橋梁拡幅工事を急ぐべきだ。先ずは安滝線から期間限定の新緑期、夏休み、紅葉期間の週間・週末・祝日の試験運行を望みたい。料金は往復1,200円位が妥当だろう▲マタギの里を形成する戸取内・中村・打当集落は奥座敷に名瀑群を従え、整然と人の手が加わった田園と里山は日本の原風景を温存する山村空間だ。打当温泉、マタギ資料館、クマ牧場、遊遊ガーデンに加え内水面漁業養殖場も有用な観光施設になる。中村登山道は森吉登山コース中、唯一集落と温泉に直結したコースだ。その玄関口には秋田内陸線阿仁マタギ駅のアクセスポイントが絶妙にアプローチする恵まれた立地条件にある▲里山風景を損ねる心配が一つある。それは集落の県道に設置された地吹雪防護柵だ。風雪方向が一様でない狭隘な山里に果して必要なものか理解に苦しむ。公道の随所に設置された同柵が景観を遮断し精神的威圧感を与える、と各地で苦情がでていることも事実だ。北海道の美瑛町・富良野町の広大なパッチワークの大地も遠野の水郷地帯も頑なに設置を拒んでいるのは景観こそが観光意匠だからだ。揮発油税が独り歩きし、公共の落書きがこれ以上増えないことを祈るばかりだ。同じ公共事業として登山道等の環境保全対策に向けうる揮発油税一般財源化の道筋が欲しい▲奥阿仁は、内陸線の終着駅に値する理想郷のすべてを内包している。子ども農山村交流事業などによるグリーンツーリズム、名暴巡りのエコツーリズム、棚田や里山を巡るスローツーリズム、雪中行軍体験のホワイトツーリズムやマタギツーリズム。この閉鎖空間は遊びが凝縮した独立国なのだ。後は、迎える側のホスピタリティーの磨きにかかっている。「マタギの湯」旧館リニューアルオープンを奥阿仁観光復活の証しとしたい。 2010.6.1